豊かに暮らすための家 / 前川國男邸

 

先日、東京・小金井の江戸東京たてもの園を訪れ、園内に移築保存されている前川國男邸へ足を運んだ。
前川國男、日本の近代建築を語るうえで欠かせない存在の彼は、若き日にパリでル・コルビュジエのもとに学び、帰国後、日本にモダニズム建築を根づかせた建築家だ。
この住まいは1942年、戦時下の東京・品川に建てられたもの。物資が不足していた時代背景もあり、鉄やコンクリートではなく、主に木材を用いて構成されている。

 

 

室内に入ると、まず光のやわらかさが印象に残る。大きな開口部から差し込む自然光が空間全体に広がり、外の緑と室内をゆるやかにつなぐ。内と外は分けられていながら、その距離は近い。仕切りすぎない間取り。空間が連続していて、家族の気配を感じられるような造りになっている。
食卓の上だけ天井がわずかに低く設えられているのも興味深い。高さを抑えることで視線が集まり、食事の時間に自然と落ち着きが生まれる。装飾に頼らず、空間のつくりそのもので場を整えていることが伝わってくる。

 

 

限られた素材と制約の多い時代のなかで、暮らしの質をどう守るか。その問いに対するひとつの答えが、この住まいには示されているように思う。
揺るがない芯がある空間。住まいのあり方について、あらためて考えさせられる一軒だった。