赤レンガの工場から生まれた、日々のうつわ
“Arabia” by Safa Hovinen, CC BY 2.0
フィンランド・ヘルシンキの北側、「アラビア地区」と呼ばれるエリアに、1873年、ひとつの陶器工場が建ちました。のちに「アラビア」として世界中に知られることになる、その始まりの場所です。
工場の建物は、どこかヨーロッパの古い絵本に出てきそうな赤レンガ造り。高くそびえる煙突、木の窓枠、少し煤けた壁。今なら“レトロでかわいい”なんて言われそうですが、当時はフィンランドの寒空の下で沢山の人が朝早くから集まり、陶器をひとつひとつ手作業で制作していた、まさに“働く場所”でした。
工場の中では、ロクロを回す音、釉薬を塗る刷毛の音、そして大きな窯から出てきた陶器がカチリと重なる音が響いていたそう。職人たちは手先が器用で、丁寧で、ちょっと頑固だったりする。でも、自分たちの手から生まれるものに誇りを持っていた。そんな雰囲気が、古い写真や記録からも伝わってきます。

もちろん、当時の製造は今のように効率的ではなく、全てが人の手と感覚頼り。季節や湿度によって乾き方が変わったり、窯の温度が微妙にぶれたりして、同じように作っても、全く同じ仕上がりにはならない。だからこそ、どの器にもほんの少しずつの「違い」と「個性」があったのだと思います。
アラビアの製品には、「美しく、でも日常に寄り添うものを」という想いがいつも込められていました。それは、豪華さや派手さではなく、日々のごはんを、ちょっとだけ心地よくしてくれるもの。作り手たち自身が、自分たちの家でも使いたいと思えるものを、丁寧に仕上げていたのでしょう。

ARABIA Samba cup&saucer / アラビア サンバ カップ&ソーサー
今ではもう稼働していないこの工場も、建物自体は残っていて、アートやデザインの拠点として活用されています。かつてここで働いていた誰かが、「自分の作った皿が、遠くの国の食卓に並んでるかも」と想像していたのだとしたら...
その想像は、きっと今、世界中で静かに叶えられているのかもしれません。